そんなニーズにお応えした、労働基準法をひと通り学べるこのシリーズ!
元労働Gメンがわかりやすく解説します♪
労働契約とは
そもそも、労働契約とはなんでしょうか。
労働契約法では、次のように定義されています。
労働契約法 第六条(労働契約の成立)
労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する。
労働者「労働します」
使用者「賃金を支払います」
と、労使双方が合意した契約を「労働契約」と呼びます。
労働契約の当事者①「労働者」とは
労働者について説明するとなると、記事を一つ作れてしまいます。
というわけで、作りました。
詳しくはこの記事をご覧いただくとして、ここでは一言で言うと「事業に使用される者で、賃金を支払われる者」という定義になります。
労働契約の当事者②「使用者」とは
「使用者」は、労働基準法で次のように定義されています。
労働基準法 第十条(使用者)
この法律で使用者とは、事業主又は事業の経営担当者その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者をいう。
一般的な言い方では「社長」や「代表」といった人が代表的な使用者です。
加えて、事業主のために行為をする人として、例えば「工場長」「部長」「店長」といった人たちも使用者と解釈されるうるわけですね。
どうですか?
意外と使用者の範囲は広いと思われたのではないでしょうか。
労働契約の締結
口頭または書面により労働者と使用者が合意することで、労働契約の締結となります。
労働契約自体は口頭でも成立します。
「あれ、口頭でいいの? 働き始めるときは、書面の通知が必要じゃなかったっけ?」と思ったあなた!
その通りです。事業主には、書面で労働条件を明示する義務があります。
ただし、細かいことをいうと、「労働契約」と「労働条件の明示」は別物です。
労働契約は、「うちで働いてください!」「ハイ、働きます!」という労使双方の合意のことです。
それ自体は、口頭でも成立します。
これに対し、労働条件の明示は、労働基準法で事業主に課せられた義務であり、「あなたの労働条件はこうです」と(一方通行的に)書面を交付するものです。
労働条件を記載しつつ、タイトルを「雇用契約書」にして労使双方が署名押印をすることで、労働契約と労働条件の明示を同時にする場合もありますね。
労働条件の明示についての詳細は、こちらの記事をご覧ください。
契約期間
契約期間は、次の2種類です。
- 無期雇用契約:期間の定めのない契約
- 有期雇用契約:期間の定めのある契約
有期雇用契約の契約期間の上限は、労働基準法で次のように定義されています。
労働基準法 第十四条(契約期間等)
労働契約は、期間の定めのないものを除き、一定の事業の完了に必要な期間を定めるもののほかは、三年(次の各号のいずれかに該当する労働契約にあつては、五年)を超える期間について締結してはならない。(以下略)
有期雇用契約は、最大3年までです。
例外的に5年までOKなのは、次の2種類です。
- 厚生労働大臣が定める専門的な知識を有する労働者
- 満60歳以上の労働者
なお、契約更新によって通算5年を超えたときは、労働契約に関する特別なルールがあり、それを「有期契約の無期転換ルール」と呼びます。
有期労働契約の更新で通算5年を超えたとき、従業員の申出により無期労働契約に転換できることが労働契約法で定められています。
厚生労働省の「無期転換ポータルサイト」に詳しい解説があります。
労働契約の終了
労働契約が終了するのは次の場合です。
- 解雇(使用者が一方的に労働契約を終了させること)
- 退職(労働者の申し出により労働契約を終了させる場合や、退職勧奨による合意退職)
- 契約期間の満了(雇用期間の定めがある場合や、広い意味では定年退職も)
- 就業規則の定めによる自然退職(休職期間の満了、無断欠勤や行方不明・音信不通)
労働契約を終了する場合は、どれに当てはまるのか、終了理由を意識することが重要です!
4の自然退職はあまり聞き慣れないかもしれませんが、「このような場合は退職」と就業規則であらかじめ定めている場合の労働契約の終了です。
例えば、「病気休職が6か月続いた場合は労働契約を終了させる」というように、あらかじめ就業規則による契約事項として定め、それに該当した時に労働契約を終了することです。
病気などのなんらかの理由で、労働者が労働力を提供できない状態を定めるケースがほとんどです。
労働契約が無効になる場合
労働基準法には、労働基準法の規定を下回る契約を無効とする条文があります。
労働基準法 第十三条(この法律違反の契約)
この法律で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする。この場合において、無効となつた部分は、この法律で定める基準による。
というわけで、労働基準法違反の契約は、無効になります!
無効になった部分は、労働基準法で定める基準に自動的に引き上げられます!
例えば「休日はない!」という法律違反の契約をした場合、自動的に法律通りの「休日は週1日以上」に契約内容が引き上げられることになります。
こんな労働契約は違法です!
あらかじめ違約金や損害賠償金額を決める契約
10枚も割ったんですか?! ……いや、そこじゃなくて。
こういった、業務中の粗相などに対してあらかじめ損害賠償を定める契約は労働基準法違反です。
違約金の方の例としては、「1か月以内に辞めたら罰金1万円」といったものがありますね。
労働基準法 第十六条(賠償予定の禁止)
使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。
では、次のようなケースはどうでしょうか。
実はこれは違法ではないです。
ケース1もケース2も労働者に損害金を請求しているのに、一体何が違うのか?
キーワードは「あらかじめ」なのか「実費」なのかという点です。
労働者の過失による損害が発生した場合に、実費額を請求する行為は違法とまでは言えません。
もちろん、事業場から請求されたからといって、払う義務があると確定するわけではありません。
払う義務があるかどうかは、労使双方で話し合いがつかなければ民事裁判で判断されることになります。
前借金分の賃金を払わない
働いて返済することを前提とした労働契約を締結し、借金返済分として賃金を支払わない契約は違法です。
労働基準法 第十七条(前借金相殺の禁止)
使用者は、前借金その他労働することを条件とする前貸の債権と賃金を相殺してはならない。
労働者が事業主からお金を借りるケースは、世の中的には意外とよくありますね。
難しいのは、事業主が労働者にお金を貸すこと自体は禁止されていないということです。
ただし、賃金と相殺することは違法です。
賃金は一旦支払い、労働者から自主的に返済させないといけません。
現金のやり取りが面倒なので、労働者の同意を得て返済分を差し引いた額を支払う場合もありますが、労働者が「同意してない」と言い出すケースもありますからやめた方がいいですね。
そもそも、事業主と労働者の間柄でお金の貸し借りをすることは、心の底からお勧めできません。
そういった借金を返す返さないでもめて労働トラブルに発展した事例を山ほど見てきましたから……。
労働契約にまつわる頻発トラブル
募集(求人広告)と労働契約が違う
募集時の求人広告と、実際の労働契約で、賃金などの待遇が違うというトラブル、これもよくあります!
でも、違法とまでは言えないのが難しいところです。
求人広告はあくまで広告であって、その人の労働条件とイコールではないからです。
労働契約を締結する際に双方が合意した内容が、その労働者の労働条件なのです。
普通は求人広告のとおりだと思って、わざわざ入社日に確認したりはしないかもしれません。
給料日になって初めて、思っていた金額と違うと気がつくことも……。
このようなトラブルを避けるため、事業主には雇入れ時に労働条件を書面で明示する義務があります。
労働条件通知書(労働契約書、雇用契約書)が交付されない
労働者を雇入れた際に、労働条件を書面で明示しないことは法違反です!
正社員だけではなく、アルバイト、パート、嘱託などでも同様に交付する義務があるんですよ。
もちろん、事業場の規模も関係ありません。労働者を1人でも雇用したら、その労働者に対して交付する必要があります。
労働条件の明示については、こちらの記事をご覧ください。
本採用だと思っていたのに試用期間と言われた
こういう事案で「解雇された!」との労働相談に発展することはよくあります。
ただし、違法になるとは限りません。
というのも、試用期間は通常有期雇用契約になっています。
有期雇用契約の雇用期間の満了による労働契約の終了は、違法ではないのです。
こういったトラブルを避けるためには、事業場側は労働条件通知書に試用期間である旨をしっかり明記し、労働者側も労働条件通知書の記載内容をしっかり確認しておく必要があるわけですね。
ただし、雇入れから14日以上経過した後である試用期間の途中で一方的に労働契約を終了された場合は、解雇予告手当の支払いなどの補償を受けることができます。
試用期間中に労働契約が終了したときに賃金を支払わない
いかなる時も、労働に対して約束した賃金を支払わないことは違法です。
「試用期間」という言葉を拡大解釈して、「お試し期間」「まだ採用してない」などと主張し、試用期間をもって労働契約が終了した労働者に対して、事業場が賃金を支払わないトラブルが時々ありました。
このような場合の事業場側の主張は、「まだ労働力になってなかった」「役に立っていなかった」というものですが、そりゃそうですよ、入社したばっかりで仕事を覚えているところなのですから。
使用者の指揮命令下において(仕事を覚えると言う)労働をさせたなら賃金を支払わなければいけません。
また、例え事業場側が「まだ雇用していない」と主張したとしても、労働させるということは、明示的か黙示的かはさておき、労働契約が成立しています。
労働契約が成立しているからこそ、研修を受けさせることができるのです。
まとめ
労働契約についてのお話、いかがでしたでしょうか。
学生時代に数々のアルバイトをしてきた私ですが、その頃は、一度も労働契約ということを意識したことはありませんでした。
働く上でとても大切なテーマですが、意外と意識することは少ないですね。