長時間労働者の面接指導とは、一定時間を超える長時間労働を行った労働者に対し、医師による面接を実施し、その結果を踏まえて事業者が必要な就業上の措置などを講じる制度です。
労働者の健康障害を防止するための仕組みとして、労働安全衛生法に基づき実施が求められています。
長時間労働者に対する医師の面接指導制度。
法律で定められている重要な職場の健康確保措置のひとつです。
しかし、制度としては存在していても、実際の現場では十分に運用されていないケースも少なくありません。
近年は働き方改革の流れの中で、労働時間の適正管理や健康確保が、事業者により強く求められるようになっています。
長時間労働者に対する面接指導も、その一環として位置づけられるものです。
私が労働基準監督官として現場を見てきた中で、長時間労働者の面接指導が機能していない職場の傾向を、5つに整理しました。
① そもそも対象者を把握していない
長時間労働者に対する面接指導を行う前提として、まず必要になるのが、労働時間の状況を正確に把握することです。
事業者は、1か月ごとに労働時間を確認し、時間外・休日労働が一定時間(原則として月80時間)を超えた労働者については、その旨を本人に通知するとともに、面接指導の対象者であることを伝え、面接の申し出を行うよう勧奨することが求められています。
しかし実際には、こうした把握や通知が十分に行われておらず、そもそも面接指導の対象者が適切に抽出されていないケースも見受けられます。
また、そもそも、「労働時間の把握を誰が行うのか」「対象者の抽出や本人への通知を誰が担当するのか」といった役割分担が明確になっていないために、対応が曖昧になってしまっている事業場も少なくありません。
さらに、管理職を対象から外してしまっているなど、制度の理解不足によって対象者が漏れているケースも見受けられます。
② 本人の申出待ちになっている(本人任せ)
長時間労働の労働者に対する面接指導は、法令上は、本人からの「申し出」があった場合に実施することとされています。
しかし実際には、この「申出制」をそのまま運用してしまうと、面接指導がほとんど実施されない状態になってしまうことがあります。
長時間労働をしている労働者は、日々の業務に追われ、心身ともに大きな負担を抱えている状況にあります。
その中で、自ら「面接を受けたい」と申し出ることは、心理的にも実務的にもハードルが高いのが実情です。
その結果、本来面接指導が必要な労働者ほど、面接を受けていないという悪循環が生じてしまうケースもあります。
このように、申出という本人任せの運用をそのまま行っている限り、制度が機能しているとは言いがたいものです。
対象となる労働者が明確に拒否した場合を除き、原則として面接指導を実施する前提で運用することが望まれます。
③ 忙しさを理由に面接を後回しにしている
長時間労働の労働者に対する面接指導は、制度としては実施が求められているものの、実際には「忙しさ」を理由に後回しになっているケースも少なくありません。
長時間労働となっている労働者は、日々の業務に追われており、自ら時間を確保して面接を申し出ることは、現実的には容易ではありません。
また、対象となる労働者から「業務が忙しく面接の時間が取れない」といった申し出があった場合や、産業医の来社日に予定を合わせることが難しいといった状況において、そのまま対応を先送りしてしまっているケースも見受けられます。
その結果、面接指導が実施されないまま、後手に回ってしまうことがあります。
本来、長時間労働者に対する面接指導は、おおむね1か月以内に実施することが求められています。

しかし、対応が遅れることで、長時間労働による負担が積み重なり、気づかないうちに対象労働者の心身の健康が損なわれていくおそれがあります。
タイミングを逸した面接指導は、本来の効果を十分に発揮できません。
面接指導を確実に実施するためには、事業者が、その労働者に過重な負担がかかっている状況を重く受け止め、面接の時間を確保するための業務の調整を積極的に行うことが求められます。
④ 面接して終わりになっている
長時間労働者に対する面接指導は、実施すること自体が目的ではなく、むしろその後の対応こそが重要です。
面接指導を実施した医師は、労働者の健康状態を踏まえ、就業に関する必要な措置について事業者に意見を述べます。
たとえば、労働時間の短縮や業務内容の見直し、就業場所の変更、休業の必要性といった内容です。
その医師の意見を受けて、事業者が就業に関する必要な措置を行うことが重要となってきますが、実際には、面接を実施しただけで対応が止まってしまい、医師の意見が十分に反映されないケースも見受けられます。
その結果、対象労働者に過重な負担がかかり続け、心身の健康が損なわれるおそれがあります。
面接指導は「実施して終わり」ではなく、「事後措置まで行って初めて意味がある」ものです。
事業者は、医師の意見を踏まえ、労働時間の制限や業務内容の見直しなど、就業上の措置を適切に講じる必要があります。
また、実施した対応内容については記録に残し、継続的にフォローしていくことも重要です。
⑤ 制度が理解されていない・整備されていない
長時間労働者に対する面接指導制度については、制度そのものの理解が十分でなく、仕組みが整備されていない事業場も見受けられます。
事業場に調査に入ると、まずは労働時間の記録を確認しますが、そこで月80時間以上の時間外・休日労働が認められた場合、次に確認するのが面接指導の実施状況です。
しかし、その際に「それは何のことですか?」といった反応が返ってくることもありました。
また、社内規程では制度の存在が示されていても、面接指導の具体的な流れや、担当部署・担当者が明確になっていないために、実際には面接指導が行われないまま、形だけのものとなっているケースも少なくありません。
このように、制度が「あるだけ」で機能していない状態では、長時間労働による健康リスクに適切に対応することはできません。
その結果、ある日突然、長時間労働を原因とした脳・心臓疾患やメンタルヘルス不調による労災請求事案が発生し、事業場として初めて問題の大きさに直面することもあります。
事業場においては、対象者の抽出から面接指導の実施、事後措置に至るまでの一連の流れを整理し、それぞれの役割分担を明確にしたうえで、確実に機能する体制を整備することが求められます。
まとめ:幽霊制度はリスクあり――実体を伴ってこそ機能する面接指導制度
長時間労働者に対する面接指導は、制度として存在しているだけでは、意味がありません。
対象者の把握、面接の実施、事後措置まで、一連の流れが実際に機能して初めて、労働者の健康確保につながります。
本記事で紹介したように、制度が形だけのものとなっている事業場では、長時間労働による健康リスクに適切に対応できていない可能性があります。
今一度、自社の運用状況を見直し、制度が「機能しているか」という視点で確認してみてはいかがでしょうか。
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- 健康診断の種類と実施のポイント
- 健康診断後に必要な対応
- 労働時間の状況の把握方法
- ストレスチェック制度の実務対応
といったテーマを取り扱い、職場の健康管理を担当するうえで必要となる知識を、実務に即した形で体系的に解説しています。
長時間労働者の面接指導制度はもちろん、職場の健康管理全般について理解を深めたい方は、ぜひ一度ご覧ください。

